トム・ルッツ「働かない」を読みました

 トム・ルッツ作小澤英実訳の「働かない」を読みました。

 副題に「怠けもの」と呼ばれた人たちと付いている通り、労働とそれに対峙する怠けるという事について、ベンジャミン・フランクリンの時代からの怠け者達の系譜をたどる事により考察している、中々の労作です。


 大学進学を前に同居を始めた息子が、カウチに横たわっていつまでもダラダラしている事に、いつしか怒りを覚えだした著者が、人はなぜ働かない人々に対して怒りを感じるのか興味を抱いて調べ始めたという、出だしから面白い著作です。

 アメリカ・ピューリタンの倫理観として、労働というのは高い価値を認められているけど、本来近世になるまで労働とは労苦であり、必ずしも尊い概念とばかリは言えなかった。

 往々にして勤勉を説く人間が怠け者で、自分を怠け者と定義する人が、実際には過剰なほどの労働をしていた事例を引きながら、働く事の価値観の変転について考察している。

 
 私自身、正直言ってそれ程仕事が好きなわけではありません。じゃあ仕事をせずに何かもっと有意義なことをしたいのかと問われれば、そういう何かも存在しない。

 そうなると、もう立派な怠け者です。その事実にある日はたと気が付きました。


 しかし怠け者というのは、やはりネガティブなイメージで、人に向かってオレは怠け者だ、それがどうした、とは言いにくい。

 妻子を養う身となれば、怠けてばかりも居られませんし、苦痛を感じたとしても働かざるを得ない。

 しかし自分は本来怠け者なのに、勤勉なふりをするのにも実際疲れるし、そういう自分が情けなかったりする時も有ります。
 
 ちょっとモヤモヤとしたものが有ったので、何だかこの本を読んで、そうか人間は本来怠けものなんだと、スッキリした気持ちになりました。

 しかし怠惰である事はそんなに悪い事でもないかも、と思う一方で、「ものぐさはサビと同じで、労働よりもかえって消耗を早める」何て言う箴言にも説得力を感じます。


 著者も一方に肩入れするような姿勢はとらずに、さまざまな事例を引いて怠惰に付いて語るのみで、こういう姿勢がまた好ましい。 


 それにしても、怠惰理論とか、人は暇である時のみ自由であるとか、閑者生存の法則だとか、ヒマ人には面白い事を考える人がいますねぇ。


 真面目で分厚い本なので、ついつい拾い読みになってしまったけど、読み始めると面白い本でした。


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